【うっきうき入院ライフ①】イケメンパラダイス
ヒャッハー☆更新だぁ!!
という訳でひなおです。
退院したばかりの身には、連日のこの暑さはなかなかに堪えます。
まさかの病院送りアゲインの影がちらつく今日この頃。
そんな脳味噌沸いた状態で、本日も元気にお送りいたします☆
前回の続き
ある日、佐藤さん(仮名)は言った。
あなたはラッキーだ、と。
病室が満員だったからこそ、本来関係のないはずのこの病棟の、この病室に詰め込まれた。そのことに感謝する日が、きっと来る。――――具体的には今日の午後3時頃。
それは、穏やかな午前の日差しが優しくエデンの住人達(入院患者)を照らす。
そんなある日の出来事だった。
――――――――――――――――――――――――――――
「さて、じゃあ散歩に行ってくるよ」
「ほよ?今日散歩の時間いつもとちがうー?」
「今日は早く帰ってきて準備しないとだからねぇ」
そう言って渡辺さん(仮名:68歳)は病室を出て行った。
検査か何かがあるのかなと、ひとり納得して、いつものように手を振ってお見送りする。
「行ってらっしゃい。お土産にモンブラン買ってきて❤」
おそらくこの病室内でいちばん、なんの症状も苦痛もないのは私だ。
だけど私は歩けない。
【絶対安静】の【絶対】は、どうやら嘘偽りのない事実のようで、歩くことすらほぼ全面禁止されたから。
移動には車椅子を使ってくださいと言われた。
車椅子のほうが逆に体力の消耗が激しいんじゃないだろうか。安静にならないんじゃないだろうか。
そう疑問を持ったので素直に口にしてみたら、看護師さんには笑顔で「車椅子、のりなさいね?」と言われた。怖かった。
というか、そもそも私は許可がないとこのフロアからすら出られない。
理由は不明。
という訳で、御年68歳の渡辺さんに、今日も私はお使いを頼む。
何も悪いことをしているわけではないのに、ものすごくダメ人間に成り下がってしまった気がしてくるけどそこは心頭滅却してやり過ごす。だって、モンブランが食べたい。
「ああ!そういえば今日はあの子が来る日だったわ!うっかりしてた!」
突然、隣のベッドの佐藤さん(仮名)が大声で叫んだ。
思わずびくついた私には目もくれず「きゃあヤダ、新しい寝間着に着替えないと❤」などと浮足立って、いそいそと着替えの準備に入っている。
「私なんて、こないだ家族に新しいやつ買ってきてもらっちゃったわよぉー」
「あら、おたくも?」
「みんな考えることは一緒ですねぇ」
小林さん(仮名)と藤田さん(仮名)原さん(仮名)までもが、楽しそうにキャッキャしだしたところで、着替えを終えた佐藤さんが、私のベットに身を乗り出してきた。
「ひなおちゃん!準備して!」
「へっ?」
―――――そして話は冒頭に戻る。
「午後3時?おやつの時間?」
「そう、おやつの時間にね、渡辺さんとこにマッサージ師さんが来るのよ」
「マッサージ師さん???」
「だからひなおちゃん、モンブランは私たちと一緒にマッサージ師さんを見物しながら食べましょうね!!!」
「え?あ、うん」
「ひなおちゃんも一応着替える?準備する?」
「なんの?私もマッサージされるの?」
「されないけど、イイ男が来るなら準備したほうがいいじゃない❤」
男と女は何があるかわかんないのよぉー、と豪快に笑う佐藤さん(仮名:65歳)
その女子力、私にも分けてください。
とりあえず寝癖だらけの髪の毛を整えて、ピンクのカーデを羽織るくらいの準備はすることにした。
ついでに、私のメンタルを維持するために数種類持ち込んである、良い香りのボディクリームを塗り塗り。
同室の皆様にも好きな香りを選んでもらって付けてもらった。
喜んでもらえたみたいで嬉しかった。
そして午後3時…
ついに「彼」がこの病室にやってきた。
正直期待なんてしていなかった。
いや、だってホラ、皆様そこそこの入院歴をお持ちなわけでさ。
やっぱり時間を持て余しているわけですよ。
そこにちょっと若い男の人が来たら、それだけでキャーキャー言いそうです。
だから、皆様の勢いに乗って遊びつつも、実はそこまでマッサージ師さんには興味がなかった。単純にみんなでキャッキャするのが楽しかっただけで。
だが、しかし。
彼を一目見た瞬間、私の脳内で緊急招集が掛かった。
【緊 急 脳 内 招 集】
殿 「蘭丸!蘭丸!余の刀をもてい!」
蘭丸 「殿!お静まり下さい!皆の者、殿をっ、殿をお止めしろぉぉ!!」
家来A 「殿!」
家来B 「お静まり下さいませ!!」
殿 「ええい離せ離せぇい!どりゃあっっ!!!」
ばしゃーん!ずだーん!ズシャッ!ぶしゃぁ!!!
家来ズ 「殿ぉぉぉぉぉぉーーー!!!!」
貴様、私を萌殺す気かぁぁぁぁ!!
黒髪短髪によく似合う、爽やかな笑顔
白衣に包まれた、すらっとした体躯
襟元から微かにのぞく鎖骨、筋張った大きな手…
お前はどこの窪田くんだ!!!!
イケメンにもほどがあるだろう!
私が鎖骨フェチと知っての狼藉か?!
あまりの興奮っぷりに、思わず我が脳内の江戸城で殿がご乱心してしまったではないかッ!!けしからんっ、もっとやれ!!!
「ね?あなたラッキーだって言ったでしょ」
「今すぐに神に祈りを捧げようと思います。とりあえず土下座すればいいですかッ?」
「まぁまぁ、まずはこっち来て一緒に観さt…お菓子食べましょ」
「イエス、マム!!」
ある者はモンブランをもりもりと平らげ、ある者は緑茶をガブガブと飲み、またある者はバリボリと煎餅に齧りつきつ、我々はじっと熱いまなざしで観賞し続けた。
「イイ男ねぇー(うっとり)」
「爽やかなのに色気があるってのがたまんないのよねぇー」
「そうそう、笑うと可愛いしねぇ」
「あの鎖骨持って帰れないかな?」
「え」
女ばかり5人、輪になって生贄(と書いてマッサージ師さんと読む)に熱い視線を送りつつ、鼻息荒く萌ころがるその様は、まるで魔女の宴である。
サバトだ
これは魔女の饗宴(サバト)だ
その日、私は神と渡辺さん(仮名)に感謝しながら眠りについた。
やっぱり続くよ!