日々是妄想

読書が好き。食べることが好き。哲学が好き。引きこもりがちな私の日常。大体妄想中。

【恋愛引き寄せ】妄想よりヤヴァイかもしれない【小説テイスト】

 

大人になるにつれ、新鮮な驚きや発見といったものは、どうしたって少なくなってくる。

もちろん、世界は広い。果てしなく広い。

心の持ちかた一つで、自分の行動一つで、目の前に広がる世界はいくらでもその姿を変える。それは十分わかってる。

だけど、やっぱり子供時代に比べたら、日々の時間の中で【初めての経験】をする機会は減ってくる。それは仕方がない。特段嘆くようなことでもない。

 

だからこそ、この年齢になって【初めての経験】をすることは、とても楽しくて、この上なく魅力的で、そしてチョッピリ不安――――

 

 

私は昨日、初体験をした。

まさに人生初。

 

同時に私は昨日、初体験をさせた。

まさに人生初。

 

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 「メシ行くぞ!誕生日祝ってやる」

 男友達から、そうラインが届いたのは今月の初め頃。

もうわりと長い付き合いに達している彼 が、自主的にこんなお祝い事をしてくれるのは今回が初めて。

まぁよくよく話を聞いてみたら、もともと友人達とのご飯を予定していて、私の誕生日祝いはついでってことみたいだけど。

 

「ん。わかったー」

可愛げのかけらもない短文ラインを返してその日は終了。

集まるメンバーも、食べに行くお店も、そのまま前日まで何も知らなかった。

 

そして迎えた当日。

結局メンバーは男友達3人と私という4人構成。

知り合ってからの年数はそれなりに経ってはいるけれど、年に1、2回会うかどうかってくらいだから、そうよく知ってるわけでもない。

私にとって彼らはそんな存在だった。

 

咄嗟に話すことが浮かばない安定の底辺コミュ力な私は、基本的に聞き役。

真面目な話も馬鹿話も「ふんふん」とキャベツを咀嚼しながら聞き流す。

キャベツは胃腸に優しい食材。優先的に摂取する。これ基本。

 

「お前相変わらずキャベツ盛り食いだな。」

「ん。」

「あー髪の毛切ろうか伸ばすか悩むわ―。」

「オンナかよ!」

「あ、オレ女だったらモテる自信あるんだけど。」

「いや俺だろ。」

「いや俺のがモテるだろ。」

「ん。」

「お前俺らに興味ねぇだろ。」

「ん。」

 

 いつもと同じような会話。

いつもと同じように時間は過ぎ、いつもと同じように解散する、はずだった。

 

「俺さーツーブロックにしようかと思ってさー。」

「エグザイ」

「ちげーし!目指してねーし!」

「やっぱ短くすんの?」

「もぐもぐ。」

「いや、今髪の毛結ぼうと思えば結べるんだけどさー。この耳横のトコがぴよって残っちゃうんだよね。それが許せんから刈っちゃおうかと思って。」

「あー、そゆことね。」

「俺も大学の時髪伸ばしてたことあるけど、それわかるわー。」

「でしょ?つーかひなおってその長さ結べんの?」

「もぐもぐ。」

「俺らの話聞いてた?」

「もぐもぐ。ん。」

「ちょっと結んでみて」

「ん。」

 

私はこの時何も考えずにリクエストに応じた。

せっかくお前らがお喋りに興じている隙にアボカドを食い尽くしてやろうと思っていたのに、と心の中で悪態をついていたりしなくもなくもなかったが、それ以外は特に何も考えずに箸を置き、両手で髪を束ねて見せた。

 

「ん。」

 

 

その瞬間、ピキッと場の空気が固まったのがわかった。

 

 

「…ん?」

 

 

あれ?なんだこの空気。

どーした何が起きた?教えて偉いひと!!

おい、A太なんで口空いたまま固まってんの。

いやいやB介、箸を手から落とすとか漫画じゃないんだから。

ってC哉、アンタなに祈り捧げ始めてんの。

何これカオス。

 

 

「やっば…」

 

 

ヤバいのはお前らだ!!

なんですかなんなんですか?私何かしましたか?

 

「ちょ、お前それ卑怯だろ」

「はい?」

 

突然の卑怯呼ばわりとかケンカ売ってんのか?

 

「あーオレいま運転中だったら確実に事故ってた」
「完全同意」
「ココが個室で良かったわー」
「見惚れて動けないとか俺初体験なんだけど」
 
 
何なのこの人達。
急にどーしたの。
あれか?メダパニか?コンフュガか?テンタラフーか?
 
 
「お前は今日から人間兵器を名乗れ」
「なんでやねん」
 
「やばい・・・まじでやばい・・・どうしようオレ」
「どーもするな」
 
「オレ絶対、あした仕事に集中できない」
「はたらけ」
 
「忘れたいけど忘れたくない」
「忘れろ」
 
「電流走るって、あれマジだったんだな」
「生体電流は常に走ってるだろ」
 
「オレもう無理。何が無理かよくワカンナイけどもう無理」
「オツカレサマデシター」
 
「なんなんだ、その色気」
「ふぁ!?」
 
「彼氏いるってわかってるけどお前のこと独占したい」
「ぶほっ!?」
 
 
待て待て待て待て。話を整理しよう。
これはあれだ。うんホラ、そのあのどのこのあの…
 
誰だここの料理にスメルグレイビー混ぜたやつ!!!
責任者出てこいッッ!!!!

 

「お前何のスキル取得したの」

「さすが誕生日後はレベルアップぱねぇな」

「にしても今の危険すぎだろ」

「封印!!お前のそれ封印!!」

「今後一切、外でその仕草すんなよ?」

「あとアップスタイルも一切禁止な!」

「なんで!!??」 

 

 断言するが、私は特に美人でもなければ色気なんて欠片もありゃしない。

そんな高スペック持ちだったら、もっと人生楽勝で生きてこれた。

初対面の男性にスライム呼ばわりされることも、例えるならエリンギ、もしくは牛乳プリンと言われることもなかった。

くわえて連日のヒャッハー祭りのせいで体も顔もほんのり丸くなっている。

 

第一、今まで髪の毛をまとめる仕草くらいで男性に褒められたことなんてない。

なにより、今目の前でテンタラフーにかけられて混乱状態に陥ってる3人に今までの付き合いの中で褒められたことなんて一度もなかった。

 

 

これは一体…?

つまりあれか?シュタゲ的に言う【別な分岐の世界に移動した】っていうアレか?

 

彼らは口々に言う。

「何かお前別人みたいになった」

 

 

うん、実際に私の外見が変わったかどうかは置いといて。ていうか変わってないし。

コレは確定っぽいな。世界線移動。

にしてもなんで今?なんで急に?

 

 

思い当たることが、実はひとつだけある。

俗にいう自愛。

 

ここ最近、妄想以上に力を入れていたのが、恐らくそれだ。

受け取り強化期間を経て、私の意識で何らかの変化があったらしい。

 

 

「もっともっと自分で在ることを楽しみたい」

 

 

そう、強く思った。

「だからもっと自分に手間暇かけてあげたい」

「もっともっと自分に素敵な時間や体験をプレゼントしてあげたい」

「だから私が私に全部プレゼントしてあげる」

 

 

先日のダイエットを思い至ったのもこんな気持ちから。

妄想はもちろん楽しいから今でもするし、もはや生活と一体化しているから勝手に垂れ流してしまうのだけど。

加えて掃除や模様替えやボディメンテナンスと、実際に「いま現実世界に身を置いてる自分」のためにアレコレする時間が格段に増えた。

 

 ハイテンションな「自分大好きー!キャッホウ☆」という感情ではなくて、もっと淡々とした感じと言うか。

自分に対して礼儀正しく誠実であろうとしてる、というほうが近いかも。

 

そんな意識を持って生活し始めてまだ数日。

たったの数日。にも拘らずこの結果。 

これはちょっと…妄想以上の効力かもしれない。

 

さんざん言われ続けている「自分の内面が先」「愛を放てば愛が返ってくる」

つまりそれって、こういうことなんだな。

そしてやっぱり、相手の性格や気持ちなんて考慮するまでもなく勝手に自分の内面に引きずられるものなんだって改めて再確認。

相手に求める前にまず自分が自分に与えようって例のアレね。うん、納得。

身をもって実感した2016年1月の出来事。

 

今日はちょっと小説風。