【ご報告】お散歩に行ってみた②
今朝寝ぼけながら着替えていたら、紺×緑のチェックシャツに濃紺無地パンツという組み合わせで着替えたつもりだったのに、間違えて紺に薄いストライプが入ったパンツを着てしまったことに気付きました。柄×柄。
ピエロな恰好のひなおです。こんにちわ。
今日オワタ\(^o^)/
絶望感につつまれながら前回の続きです。
「ハーイ」
軽く挨拶をして通り過ぎていったのは、褐色の肌に黒い瞳を持った背の高い男性だった。間違いなく海の向こうの方ではあるが、ドイツ人ではなさそうである。
「は…はーい」
日光による絶望感から、ぼーっとしていた私は咄嗟に反応できず、口元に笑みの形を作る頃には、すでにその彼はサッサと先に行ってしまっていた。
少し落ち込んだ。どうしてもっと愛想の良い挨拶を返してあげられなかったんだろう。もしかしたら傷つけたかもしれない。
これで彼に「日本人は全員無表情」などと思われてしまったら、全国民に申し訳が立たない。でも今更私にはどうしようもない。
次に彼が声をかける日本人が、コミュ力高めのハイテンションガールであることを願いつつ、私はのそのそと先へ進んだ。
途中、何人かとすれ違ったり追い抜かれたりした。
最初の彼のあと、挨拶を交わしたのはみんなご年配の方々であった。
確実に私よりもカクシャクとしていて、じつに元気そうだ。
そして何より装備品にかける気合が違う。
そういえば、最初の外人さんもかなりのアウトドア感満載なスタイルであった。
街中でよく見かける、自転車で爆走する外人さんなんかも、やたらスポーティースタイルであることが常であったので、私はあまり気にも留めず先へと進んだ。進んでしまった。
今にして思えば、私は迂闊すぎるほど迂闊であった。
私はこの時、気付くべきだったのだ。
すこし進んだところで、周囲の緑が急激に濃さを増していった。
同時に今まで平坦、もしくは緩やかな傾斜でしかなかった道が、急な登り坂に変わっていった。
そう、気付くべきだったのだ。
「森林浴が味わえる」という、その意味に。
散歩、というより登山。
森、というより樹海。
登場するのは犬、というより山犬。
脳内ではすでに米良さんがオンステージだ。
これはすでに散歩の域を超えている。
Tシャツ+パーカー+デニム+スニーカー+日傘というカジュアル極まりないこの日の私の恰好がハンパない場違い感を醸し出す、この時点でもはや遊歩道なんて生易しいものではない。
先を行った褐色オニーサンやおじーちゃんたちが正解だ 。
この場にふさわしい正装、それはスニーカーではなく登山靴。日傘ではなく登山ステッキ。デニムではなくジャージ。パーカーではなくアノラック。
それがこの場における正装というものだ。
時すでに遅し。
自分の過ちに気付いた時には、すでに周囲は濃い緑に包囲され、どちらへ進めば離脱ポイントへたどり着けるのか、全く分からなかった。
急な坂道、いや山道で一度でも道を間違えば即命取りだ。道に迷えるほどの体力なんてとっくに残っていない。
おまけにカフェで無為に過ごした時間が仇となり、迷っている間にもどんどん日が翳ってきている。怖い。
日が届かなくなった山の中ほど怖いものはない。なまじその怖さがわかってしまうだけに、自分の装備品の心許なさがわかってしまうだけに、一層恐怖だった。
もう眼鏡男子どころではない。
命の危機だ。
とりあえず携帯の電池と電波のチェック。両方とも問題はない。
次に装備品のチェック。ペットボトルのお茶1本と飴玉2個と溶けかけたチョコ3個。
最悪、今日遭難したとしても、これなら4日間は持つだろう。
いくらなんでも、それだけあれば誰かはここを通る。
コースから外れさえしなければ、特に問題はなさそうだ。
いくらかホッとして、上を見上げる。
木々に覆われて空が見えない。これじゃ方角は割り出せない…か。
それにしても、まさかお散歩に来て遭難の危機に直面するとは思わなかった。
壮大な迷子である。
誰か通りがかってくれたらベストなのだが…
そう思いつつ道なりに進んでいくと、薄汚れた看板がポツンと立っているのが目に入った。
上手とは言えない手書きの文字が5文字、並んでいる。
ち か み ち →
近道―――――!!!!!
もう一も二なく飛びついた。
この手書き文字の手作り感が怪しさマックスな気はしなくもない。だが、気にしている場合ではない!この終わりの見えない登山苦行から逃れられるならもう何でもいい!
看板の矢印方向に、喜び勇んで足を踏み入れた。
ちかみち!ちかみち!!
ちか…み…ち?
道見あたらねぇ――――っっ!!!
なんなのこれ!道じゃないし!なってないし!!
近道というより獣道!!
大丈夫?!私ココ通ってほんとうに大丈夫?!
急激に不安が襲ってきたものの、もう私の気力も体力も限界だ。
このまま進もう。
そう決断した私は、道なき道をずんずん進んでいった。
最初は本来のコースと並行していたが、どんどんズレていって、遂に視界から本来のコースが消えた時は正直、焦った。これであの看板が「ウソ大袈裟紛らわしい」類のものであったらジャロに連絡では済まない。
このまま進むか。戻るか。
戻った場合、確実にもう動けなくなる。そうなれば間違いなく日が暮れて遭難だ。
一か八か、このまま進もう。余計なことは考えない。
いま足を止めたらそこで終わってしまう。
泣きそうになりながら先へ先へと進んでいくと、唐突にぽっかりと開けた場所に出た。
ご想像頂けるであろうか。「ブォォォォ」という車の排気音が聞こえた時の、私のあの膝から崩れ落ちそうになるほどの安堵感。
神に祈りをぉぉぉぉ!!!!
祈ったね。ああ祈ったとも。
全力で神に感謝をささげたとも。
安堵と疲労とが一気に襲ってきたことで、私のライフ、残機ゼロ。
重たい体を引きずって、ぽてぽてと遊歩道を後にした。
一体、あのタロットは何だったのだろうか。
だけどまぁ、今回は完全に私のミスだ。事前にもっと調べていれば、こんな軽装備では来なかっただろう。
一応、外人オニーサンと挨拶は交わせたわけであるし、以前から来てみたかった場所に来れたというだけで良しとしておこう。うん、フラグカウント。
第一、今何かしらの出会いがあったとしても、こんなボロボロの姿を晒したくはない。
もし、本当に妄想通りの人物がこの世に存在するとして
もし、本当に妄想通りの展開が訪れるとしたら
私自身が、私の妄想通りの私、として存在していないと成り立たないだろう。
そう考えると、今日出会えなかったのは逆にラッキーなのかもしれない。
色んな意味で準備不足だ。
途中で80円のおやきを買い求め、お行儀が悪いとは思いながらも、歩きながらパクリ。なにこのふかふか。天国。
おやき効果で少し持ち直しつつ、駅に向かって歩いていると、公園のそばを通りかかった。公園と言っても遊具のない、緑のネットが四方に張られただけの小さな校庭みたいなものだ。そこで子供達のサッカー教室が開催されていた。
子供たちと共にコーチと思しき青年が、ホイッスル片手に走り回っていた。
今の私は見ているだけで体力が削られそうだ。
子供が打ったへなちょこシュートが外れるたんびに「惜しい!」と叫んでいる。
それにしても疲れた。なんだかこの場所は妄想していたのと違う場所な気がする。
「惜しい!」
ネットで見たのはもっと平坦な広場のような写真だったハズなんだけどなぁ。
「惜しい!」
東口とか北口とか色々あったからな。場所が違うのかしら。
「惜しい!」
それにしても、外人おにーさんに挨拶されたのはビックリだったなぁ
「惜しい!」
・・・・・・・・・・・・・。
黙れ小僧!!!
おやきで復活した気力が、瞬時に消滅。
何だか色々とどーでもよくなった。そんなある日の休日の出来事。
ちなみに翌日、隣の会社の人からドイツのお菓子を貰った。
ご結婚されてドイツに住んでいるという妹さんが帰国されているらしい。
「惜しい!」
通っている英会話教室で、今までとったことがない授業に出てみたところ、講師は「至高の眼鏡男子」に似た雰囲気のイケメン講師だった。しかもペットはワンコ。
カナダ人の既婚者ではあるけれども、テンションは上がった。
「惜しい!」
サッカーコーチの幻聴が聞こえる。